半世紀前の、
恋人よ ぼくは旅立つ
東へと向かう 列車で
はなやいだ街で 君への贈りもの
探す 探すつもりだ
いいえ あなた 私は
欲しいものは ないのよ
ただ都会の絵の具に
染まらないで 帰って
染まらないで 帰って
から始まる歌「木綿のハンカチーフ」。
このあと、都会へ移り住み、善意に溢れるが足元のふらついている彼と、田舎に残って、善意に溢れ、彼が都市の脳化社会に染まらないことだけを願っている彼女との間で脳化社会と自然世界の対立ーー彼は都会の脳化社会のステイタスを宝物として彼女に差し出すが、彼女はこれをきっぱりと拒絶し、田舎の自然世界の宝物を示すーーそれがくり返し語られる。
都会で流行(ハヤリ)の 指輪を送るよ
君に 君に似合うはずだ
いいえ 星のダイヤも‥‥
きっと あなたのキスほど
きらめくはずないもの
見間違うような スーツ着たぼくの
写真 写真を見てくれ
いいえ 草にねころぶ
あなたが好きだったの
しかし、とうとう、優しいが足元のふらつく彼は、都会の快適な脳化社会の奴婢から逃れられないと彼女に告白する。
恋人よ 君を忘れて
変わってく ぼくを許して
毎日愉快に 過ごす街角
ぼくは ぼくは帰れない
これに対し、彼女はどういう態度をとったか。
あなた 最後のわがまま
贈りものをねだるわ
ねえ 涙拭く木綿(モメン)の
ハンカチーフください
ハンカチーフください
バッカじゃねえの、この娘は。
せっかく、脳化社会と自然世界との対立・葛藤をこれほどあざやかにみごとに語ってきたのに、そのラストでなんで、「水に流す」という日本流の決着で台無しにするんだ。
彼女は彼を心から愛していた。だったら、最後までそれを貫け。
そのとき、彼女は、彼を張り倒すべきだった、あんたは何、寝ぼけてるんだ!と。快適な脳化社会の罠から目を覚ましなと。
それが彼にとって、一生忘れられない、目の覚めるような一撃になったはずだ。
例えば、こんな風に。
あなた、最後のひとこと
私の好きな映画を贈るわ
ねえ、涙流す「道」の
ラストシーンをみてください
ラストシーンをみてください
「道」ラストシーン(1954年)
これが残酷だろうか。いや、これこそ脳化社会の罠から目を覚まない限り、足を地につけた堅実な生き方はできない、そのことを愛する人に伝える最もストレートなコトバだ。
もしもこんなラストだったら、この歌は、歌詞の最初から最後まで、日本最高の歌のひとつになれた‥‥
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