2024年11月14日木曜日

【第17話】「脳化社会」の最悪の人権侵害者は「脳化社会」そのものの中にあり、その最大の賛同者にして被害者は「脳化社会」に安住する私たち市民である(24.11.15)

                               子ども脱被ばく裁判 福島地裁判決(2020年3月1日)

子ども脱被ばく裁判と避難者追い出し裁判が明らかにした最大のもののひとつが、人権の始まりであり人権の核心は、私の生き方、私の人生はほかならぬ私自身が選択し、決めるという「自己決定権」にあるということだ。

そこから、私たちが住む「脳化社会」がいかに人権侵害をはらんだ「人権侵害社会」であるかが浮き彫りにされた。なぜなら、福島原発事故に遭遇したとき、少なからぬ市民は、この前代未聞のカタストロフィから身を守りたいと切実に願ったにもかかわらず、前代未聞のカタストロフィから身を守るために選択すべき行動を決定するためには、自前で手に入る情報だけでは到底不十分・不可能であり、そのためには、これに必要な情報を独占している政府と福島県からの情報提供が不可欠だった。にもかかわらず、それを求める市民にその情報は届けられなかった(開示・提供されなかった)からである。
しかも、その悪質極まりない情報隠蔽は(政府や福島県にとって、これほどまでに深刻な原発事故は初体験だったにもかかわらず)何食わぬ顔をして、ぬけぬけと実行されたのである。
なおかつその悪徳行為の最大の被害者である市民の間からも、2014年のセウォル号沈没事故直後、遺族が朴槿恵大統領の青瓦台に向かって抗議行進したように、福島原発事故発生直後、菅直人首相の首相官邸に向かっての抗議行動はついに起きなかったのである。

セウォル号沈没事故で犠牲になった高校生らの遺族が、朴槿恵大統領との面会を求めて青瓦台に向かって抗議活動。2014年5月9日 ロイター/News1

このとき、なぜ市民の間から抗議行動は起きなかったのか。私たち市民が生涯でいっぺん経験するかしないかの「自己決定権」の行使が問われた、一世一代の瞬間だったにもかかわらず。

それはひとえに私たちが「脳化社会」に安住していたからではないのか。
なぜなら、私たちの住む「脳化社会」は、私たちに「安全・安心」な快適な環境を保障する代わりに、その代償として私たちに「脳化社会」が出す指示、命令に唯々諾々と従うことが暗黙の掟になっているからだ。その見えない「掟」が私たち市民にとってどれだけ強力なものか、それはカフカが「掟の前で」で描いた通りだ。

福島原発事故が起きるまで、原子力ムラは「安全神話」の中で眠っていたと批判されるが、眠っていたのはなにも原子力ムラだけではない。「脳化社会」に安住する限り、私たち市民はみんな眠っていたのだ。 だから、福島原発事故で無知の涙を流して覚醒した一部の人たちを除いて、「脳化社会」に安住していた市民は、原発事故後も引き続き、「脳化社会」を疑うことをせず、「脳化社会」が出す指示、命令に、内心はものすごく不信、不快だったにもかかわらず、表向きは唯々諾々と従ったのだ。その結果、他方で、彼らは原発事故から身を守りたいと切実に願ったにもかかわらず、その実現のために必要な抗議行動に出ることができなかった。これは一世一代の痛恨事だ。

 市民は「脳化社会」に安住する意識にとどまる限り、願いを実現するために必要な行動に移せなかった。それは生涯悔いても悔い切れない痛恨事である。

この痛恨の経験が教えることは、私たちを覆っている「脳化社会」こそ私たち市民の自己決定権を不断に奪い去る、最悪の人権侵害システムだという訓えである。この痛恨をくり返さないためには、一度は本気で、「脳化社会」の掟と対決する必要がある。

私たち市民団体が今月8日に提訴した、ゆうちょ銀行の口座開設不当拒否裁判は、「脳化社会」の掟と対決するささやかなアクション、一歩前に出る行動である(その詳細こちら)。

 

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