2024年10月3日木曜日

【第3話】「自然と人間」「人間と人間」の関係について(2)(24.10.4)

Xさん

柳原です。
今のメールの続きです。
この夏、養老孟司の「脳化社会」論を読み、正直、頭をかなづちでぶん殴られたような衝撃を受けました。
その衝撃をなかなか正確には言い表せないのですが、一言で言ってみると、それは、
お前は、これまで資本主義社会(養老孟司のいう「脳化社会」)をその外側に立って批判、変革しようと思っていたかもしれないが、お前のスタンスはまさしく「脳化社会」そのものではないか。「脳化社会」べったりの人間が一体どうやって「脳化社会」を認識、変革できるのか、と。
例えば、このブックレットで強調している、
市民運動を政治・政策ではなく人権から捉え直す。
       ↑
この私にとっては画期的だと思えた新たな視点にしても、所詮、「脳化社会」というコップの中で論争しているだけ(コップの中の嵐でしかない)のことではないのか。
というようなことでした。

> お前のスタンスはまさしく「脳化社会」そのものではないか
          ↑
それが数学です。私は小学生の時からずっと、数学を自分自身の最大の道具として後生大事にしてきたのに対し、養老孟司から
「数学こそ人を強制的に合意させる『強制了解』だ」
と一刀両断に言われた時、
「まさしくその通り。だから、貧乏人だった私が他人に自分を認めさせる武器として数学を最大の武器として考えてきた」んだと合点しましたが、しかし、養老孟司の言わんとすることはその先にあって、それが
「だから、数学とは、自然という現実に対して、それを無視しても成り立つ人間の脳の中で組み立てられた、脳化社会の典型だ」
でした。
  ↑
この指摘には一言の反論の余地もありませんでした。数学というのは、物理・化学などの実証科学とちがい、現実との間で対応が取れているかといった実証は不要で、要は論理の整合性さえ取れていればそれで証明が完成する世界です。そして、その「論理の整合性」というのは、結局のところ、人間の脳の中で組み立てられた構造物の話です。まさに「脳化社会」の産物です。
      ↑
養老孟司が指摘する「脳化社会」の行き着く先に現れた深刻な病理現象、その病理現象を生んだ出発点に、お前が愛してやまなかった数学(もしくは数学的精神)が存在するという指摘に、正直、頭から冷水をぶっ掛けられたような衝撃を受けました。
そして、これまで無邪気に数学を自分の最大の武器だと考えてきた自分の脳化ぶりを、ここで総見直しをして、「脳化社会」の外に立つという変革をしない限り、自分は「脳化社会」というコップの中でもがいているだけで、永遠にダメなんじゃないかと思ったのです。
      ↓
とはいえ、「脳化社会」の外に立つというのは「言うは易き、行い難し」です。現に、じゃあ、養老孟司はどうやって「脳化社会」の外に立っているのか、というと、彼によると、「塀の上に立つ」つまり、「脳化社会」と(脳化社会に影響されない)自然の世界との境界にある塀の上に立つ」ということを言うくらいで、それ以上、積極的なことは何一つ言っていないように思いました。
というのは、彼を紹介する文中に、必ずといっていいほど「東大名誉教授」という肩書がつきます。「脳化社会」の最たるものをぶらさげて登場している訳で、その不徹底さぶりから、既に「塀の中(脳化社会)に落っこちてる」じゃないかと思います。
また、彼自身、「脳化社会」の行き着く先について、あれこれ論じていますが、原発事故が人々にもたらした甚大な影響については、抽象論以上のことは言いません。「脳化社会」の正体が最も割れる貴重な大事件なのに、そこに切り込んでいかない。
その腰が引けている態度、消極的な態度から、彼の総論としての「脳化社会」は注目に値するけれど、具体論、各論としての「脳化社会」は、少なくとも原発事故については失格と思うようになりました。
      ↓
そこから、
だったら、自分で、彼の総論を使って、311後の日本社会の「脳化社会」を診断するだけだ、と思うようになりました。
そこから、再び、311まで私にとって最も重要な問題意識だった「交換様式」論に立ち返って、柄谷行人の交換様式論と養老孟司の脳化社会論をつなげて、そこから311後の日本社会がどう見えてくるのか、吟味してみようと考えるようになりました。
それが9月中旬からの2週間ほどの変化です。

その2は以上。
続いて、別便でその3を。

 

 

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