2025年1月18日土曜日

【第64話】パンセ:田舎人の「存在の手ざわり」について(25.1.18)

2023年7月、福井県若狭町で、チェルノブイリ法日本版の学習会をやった(>その報告)。そこに参加した一人の女性の方の感想が、その毅然とした声の調子といい、その歯に衣を着せない内容といい、とても印象に残った。

それは次のような話だった。

今日はとってもいいお話を聞かせて いただきましてありがとうございました。今、全部こうメモさせてもらったんですけど‥‥
市民立法のこのことが、私、若狭町に住んでるんですけど、これがですね、市民に要するに行き渡り、自分がそれに参加していく。えーっと、議員を頼りにしてんじゃなくて‥‥今は割と議員だけに頼り、議員がいろんなものに参加して決めていくそう いう組織が多いですよね。ここは福井県全体に自民党ガチガチなんです。保守的で、参議院も衆議院もみんなそうなんですね。‥‥
で、そういうようなところに、そして原発にお勤めの人がほとんどで、原発にすごく頼ってるんですね。で、知事さんもそれで頼って。
私は前から事故が起こったらもうこれ、アウト。福井県だけじゃなくて 全部の世界中ですか、もうこんなに大きなところでやってしまったらもう終わりだと思うんですよね。
だからいつも勉強して‥‥一人一人がもっと自覚してそして 市民立法の立ち上げを何とかして、しなきゃいけないかなって、今はそういう風に、話を聞いて思いました。

それで、じゃあどういう風にこれをしていくかということ‥‥今お話聞いててすごく、あっそっか‥‥前にですね、私 民宿してるですが、福島の子どもたちをおととし受け入れたんですね。そのときに5人ぐらい来たんですけれども、いわきかどこかからかな、
高校生なんですけど、「風評被害にあってて大変なんです。どこに行っても、『あなたたち、福島県から来たのね』って 言って嫌がられるっていう。それを、僕たち、すっごく感じるんですよ」
じゃあ、私たちがもしここでそんなことになったら 「福井県なのね、あなたたち。嫌だわって、放射能を持ってきたらもう嫌だわ」って言われるのだと思うんですよ。

だからやっぱり、自分たちの県を守るということとか子どもたちを守るっていうことをもっともっと自覚するために、ホントに勉強会というものを市民運動でしていかなければならないなと私は思いました。
‥‥いつもはお話聞くだけで、でも今日はなんかね、ああ、来てよかったなっていう熱い思いを持ちました。

その結果、この日の学習会では喋り切れなかった続きを翌月、この方の民宿でやることになった。そこは三方五湖の前の小高い山の森を越えた内陸側の田園地帯にある農家民宿だった。
そこでまた、色々なお話を聞かせてもらった。中でも一番印象に残ったのが、この方が、若狭町の森に生息するクマタカの会に参加していて、クマタカに深い愛着を抱いていることだった。
白鳥や鶴に愛着を持つ人がいることはよく知られているけれど、クマタカは初めてだった。

昨夏、養老孟司の「脳化社会」論に震撼させられ、ファーブル昆虫記とともにシートン動物記を半世紀以上ぶりに手に取るようになり、再び、鳥の世界にかつてないほど関心が沸いてきた時、この方のクマタカの話が思い出された。2年前、この方のチェルノブイリ法日本版に対する深い共感とクマタカへの愛着は私の中でバラバラの出来事だったが、今、この2つはこの方の中で深く繋がっていることに、クマタカに対する深い愛着と原発事故の救済をめざす日本版に対する深い関心とはこの方の中では表裏一体であることに気がついた。

そう思うと、2年前の7月の学習会で、この方の毅然とした感想が、あの空を舞うクマタカの勇壮な姿と重なって見えるのは私の思いすごしだろうか。
それは、自然世界と向き合って生きている田舎人がもたらしてくれる「存在の手ざわり」という宝ものだ。

          クマタカ(日本野鳥の会埼玉の廣田純平氏撮影サイト

      長野県松本市白樺峠のクマタカ(高久健氏撮影>けんさんの探鳥記より)

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